散乱する履歴書
新卒の就職活動時時、私は新宿のとある高層ビルへ会社説明会に出向いた。
大学の就職課で掲示を見た教育関連の某社であった。
履歴書を直接持参して時間通り事務所に向かうとすでに数十人が集まっていた。
会議室で待機していると係員の中年男性が来て、尊大な態度でこう言った。
「これから呼ぶ人は、この会社に来る資格はないから履歴書を返すね」
と言うが早いか、素早く次々に名前を読み上げていきながら、取りに来るのを待たずにそのまま床に投げ続けるのだった。
名を呼ばれた学生たちは自分の履歴書を探して拾い上げ、部屋から去っていった。
私も例外ではなく、床の上から自分のものを拾った。
散乱した多くの履歴書から目に入った大学名には、かなりのハイレベル校名もあったことから学校による選別でもないようだった。
それにしても無礼ではないか。
就職難だった時代で、学生という弱い立場であっても、それほどの扱いを受けるいわれはない。
帰途、エレベータで乗り合わせた学生たちは一様に下を向いていた。お互い言葉は発しなかったが、その屈辱は察するに余りある。
後年、長年勤めていた会社を早期退職したあと、派遣会社に登録しようと出かけたビルは、なんとその時と同じ建物であった。
ただ、今度はその派遣会社のおかげで再び世に戻れた。それは奇妙な巡り合わせだったと思っている。
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