活版時代の思い出
学生時代の末期、アルバイトで勤めていた職場は某財団の出版編集部門だった。
その頃の出版はまだ鉛の活字を用いた活版印刷が主流で、まだワープロもパソコンも普及していなかった時代である。
思えば、活版が印刷業界の主役だった最後の時期をリアルタイムで体験した貴重な時間だったと思う。
著者の原稿を手にすると、まず赤鉛筆で一行の組文字数ごとにチェックを入れて総行数をカウント。
そして割付指示ともに原稿を印刷場に送る(郵送または持参)と、初校ゲラが返ってくる(数日後に)。
何度か校正を繰り返し(その度に印刷所と往復)、製本間際に印刷所に出掛けて最終校正をし完成するのだ。
アナログそのものだが、いかにも「職人」という手応えがある仕事だった。
この活版時代の経験のおかげで、後年初めて手にしたワープロ専用機は一瞬でその機能が理解できたばかりか、字詰めカウントの苦行から解放されたことに最も感激した。
もちろん活字の「欠け」や「転倒」などはもう存在しない。
著者から原稿をデータでいただければなおよかったのだが、そこまでにはまだ少々年月がかかったのである。
データ入稿の時代になっても「活字の仕事」という言葉が残っているのは、長くこの仕事に携わってきた者にとって実に感慨深い。
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