思いつき小旅行

先日、私は某音楽大学の学内ホールで行われたオーケストラ演奏会に出かけた。
 そこはかつてよく自動車で訪れたのだが、その日は電車で出掛けていた出先から直接向かったので、初めて最寄り駅から徒歩で向かうことになったのである。
 駅からキャンパスへの道筋はすぐにわかると思ったので、とりあえず駅を出たのだが、記憶にある道路が全く見つからない。
 仕方なく駅に引き返し、案内所で尋ねた。
 教えられた通り歩いて行くと、ようやく記憶に結びついた道に出た。
 車の運転席から見える印象とのギャップには驚くばかりである。

 演奏会後に駅に戻ったが、ふと思いついて別ルートから帰ることにした。
 混雑する都心方面とは反対側へ迂回して帰るのも一興だと思ったのである。
 この駅から乗り込んだJRの電車はしばらくラッシュが続いたが、乗り換え駅に着く頃にはガラガラになっていた。
 乗り換え駅といっても私の乗る私鉄線は同じ構内ではなく、一度外へ出る構造になっている。
 郊外の趣が色濃く漂う駅の改札を出て踏切を渡ったあと、一瞬方向に迷ったが乗り換える私鉄駅の方向を示す矢印が電柱に貼ってあるのを見つけた。
 そこは自宅から遠い場所ではないが、まったく初めて来るところであった。
 いいぞ、旅の気分が出てきた。
 矢印の看板から私鉄駅までは一直線だ。でも200m以上はある。
 乗り換え需要で人通りが多いためか、その細い道は商店街になっていた。
 完全に旅気分となって看板を見上げたり店先をのぞいたりしながら歩き始めた。
 途中、空腹をおぼえたところで見つけたのがなじみの中華チェーン店だった。遅めの夕食を摂って、再度私鉄の駅の方向へ。
 長年住んでいる沿線ではあるが、そこは路線図で名前を知っていただけの駅だ。
 そこできょう私は電車を待っている。なんとなく妙な気持ちであった。
 ほどなく自宅近くの駅に到着。この夜の短い旅は終わった。


 それにしても、普段とは違う方向から帰って来ると、自分の家なのにどこか違う場所に来たような感じがしたのはなぜだろう。

Original 15 dec 2016

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