二度目の襲撃体験

昨年秋にパリを訪れたときのことである。

 夜間に知人と会う用事があって外出し、12時近くになってセーヌ川近くのその場所を辞去した。
 地下鉄駅まで通じる通りに出て交差点で信号が変わるのを待っていると、通りの向こうを携帯電話で話しながら歩く若い男を見た。
 信号が変わり、通りを渡ると先ほどの男が前方にいる。
 それを私は早足で追い抜いた。
 すると・・・
 携帯電話で話す声が背後から大きくなる。何語かはわからないがフランス語や英語ではないようだ。
 次の瞬間、男が私の左肩に激しく当たって来た。
 振り向くと、大げさに謝るそぶりを見せてきた。
 私は「まあ、いいよ」というつもりで手で制し再度歩き出そうとした瞬間、男が正面から組みついてきたのだ。
 電話は持ったままで、空いた手で私のコートの襟をつかみ、足を私の足にかけて引き倒そうとしてくる。
 だが私の方が体が大きく、それくらいでは簡単に倒されない。
 「これは危ないかな」と思いながら無言でもみ合い、2~3度相手が足に力をかけてくるたびにスッとこちらは足を抜いてやった。
 相手の目には次第に焦りと恐怖の色が浮かんでくる。
 やがて相手はコートの襟をつかんでいた手を離し、私の懐の中に入れてきた。
 それを私は手で払いのけ、体が離れた。次の瞬間こちらが体勢を立て直すと、反撃を恐れたのか男は全力で逃げて行ったのである。
 その後、私は素早く現場を離脱し地下鉄駅のある大通りへ出た。

 ただ、今回は自分でも不思議なほどに落ち着いていた。こちらが被害を受けるのは嫌だが、逆に相手を倒してしまってもまずい。罪に問われる可能性もある。もみあいながらずっとそれが頭にあった。
 暗い道を選んだことを後悔したが、「海外で人通りの少ない夜道は・・」という自らの教訓を破ったのが悪いのだ。
 
 明くる日、外出先から我が宿に帰るとテレビでは大騒ぎが始まっていた。
 そう、例のテロである。

Original 27 may 2016

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