中越地震の記憶

新潟県を中心に発生した中越地震の時、私は群馬県に出張に来ていた。
 夜まで出先にいたのだが、その建物は改築中であった。
 建物の5階の室内で仕事をしていると、ブルブル震えるような揺れが来て、それが強くなり、天井を見上げると石膏ボードがみるみるうちにバリバリと音を立てて割れ照明器具が配線コードを残してぶら下がってきた。
 「逃げましょう」と現地の社員に促され、窓際を離れて廊下に出た。そこが必ずしも安全とは思えなかったが、とりあえず廊下の床に伏せて頭を守り揺れの収まるのを祈った。
 建物は改築中だ。不安定になっていて倒壊するかもしれないと思うと急激に怖くなった。階段が途中で切れてしまっている可能性もある。
 気を取り直して本社に電話したら、あっさりつながって「早く仕事を仕上げろ」という緊迫感のない返答に失望と怒りがこみ上げた。
 次いで九州の母にかけたが、わずかの時間の差で回線の混雑が始まったのだろう、このときはつながらなかった。生命の危険を感じたので、せめて「ひとこと」と思ったのだがいたずらに心配させても悪い。かえってつながらなくてよかったのだろう。
 
 そのうち被害の大きさが伝わって、仕事どころではなくなり帰京することになった。
 幸い階段は途切れずに地上までつながっていたが、足の震えは収まることがなかった。

Original 30 apr 2016
  

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