春からの新生活

3月に入ると「新生活」という言葉をよくメディアなどで聞くようになる。
 進学、就職、それにともなって引っ越しと、生活が新しくなるのはいいものである。
 ただ、それを迎えるのには苦難を経ているということでもある。
 進学には受験勉強が、就職にはいうまでもなく就職活動がある。
 いずれもそれ相応の努力が必要だが、住居探しとなると、ひと味異なる苦労があるように思う。

 私が卒業を経て就職に伴い、転居を考えた数十年前はいろんな思いをした。
 希望の駅周辺を賃貸専門誌(当時はネットはまだなかった)を頼りに探し、よさそうな物件が載っている事務所を数軒訪ねたが、結局高額な物件に誘導されるのがオチで、希望の駅からもどんどん離れる始末だった。
 地元の不動産会社を訪ねても、その年の春から上京する弟が同居するのだと告げると「男性のごきょうだいはお断り!」といきなり追い出されることもしばしばあった。
 一度などは、決まりかけたのだが土壇場で女性同士の希望者が現れたことを理由に一方的にキャンセルされたこともある。
 東京周辺は今でもそうだが、住居費が異常に高額なため金銭面でハードルが高い。加えてそのころはそれ以上に貸し主側の条件が厳しく、一筋縄ではいかないのであった。
 結局、数十件当たってようやく私を気に入ってくれた大家さんの物件を見つけた。家賃には相当無理をしたが・・・。
 こちらの条件や探し方がまずかったのかもしれないが、部屋探しとは精神的にかなり参ってしまうことだと思い知った。これは就職活動とどこか似ている気がした。どちらも勉強のみで成果がある程度出る入学試験とは根本的に違う試練である。
 この春から新生活を始める方々は、この時季にはすでにそれなりのハードルを越えているはずである。社会に出る時に経験する最初のテストと言ってもいい。それだけに新しい生活への希望が強く起こるだろう。

 上京して最初に住んだ場所の私鉄沿線に私は今も住んでいる。
 懐かしいその駅前の桜は今年も咲き始める。はじめ4年間だけのつもりが、その十倍の回数観てしまうことになった。
 土地との縁とは切りがたいものである。
 でも、もう部屋探しと就職活動は御免蒙りたい。

Original 18 mar 2016

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