イタリア旅行の思い出

 過去何度かイタリアを旅した。
 あれは2度目にフィレンツエを訪れた時のことだ。
 駅近くの小さなホテルに1週間ほど滞在し、毎日美術館や寺院などを回って十分に古都の空気を堪能した。

 さて帰国の前日。
 最後の夜だからと、少し豪華な夕食をと考えてホテルからしばらく歩いたところにあるリストランテへ20時ごろ出かけた。
 料理は伝統的なフィレンツエ風のもので申し分のない味だった。私は酒を全く飲まないのでガス入りのミネラルウオーターがワイン代わりである。
 その帰途である。
 それまでどこへ出かけても通ってきた「いつもの」狭い道をホテルへ向けて歩き出した。
 ホテルへあと100メートルほどの小さな交差点にさしかかったとき、そこに数人の若者がたむろしているのを見た。
 その日は日曜日で、それまでのウイークデーとは違いほとんどの店が閉まっており人通りもわずかだった。
 ホテルへ向けてあと50メートルほどの所で、背の高い若者が何事かイタリア語で言いながら私の背中に当たってきた。
 さきほどたむろしていた連中の一人が追いかけて来たらしい。
 振り向くとニタニタ笑いながら私の背後に回り込もうとする。
 その時私は帰途で買ったペットボトルとジェラートで両手がふさがっていたのだ。それを弱点と見たに違いない。
 若い男は、私の背中から覆い被さって来、上着の内ポケットへ手を入れてきた。
 「これは危ない」と思い、身をよじって逃れようとしたが相手の背が高く逃げられない。
 私は肘を上下に激しく動かして抵抗を試みると、偶然相手の顔面にヒットした。
 一瞬ひるんだ隙を見逃さず、私はあと数十メートルの我がホテルの玄関に向けてダッシュした。
 まだ追いかけてくる足音が聞こえる。
 全力で走りながら、路地に入って来た車に当たられそうになり、そばにいた老夫婦のおびえたような顔と目が合った。それらがすべてスローモーションのようだった。
 ホテルの玄関のガラス扉を体当たりで開けると、なんとフロントのカウンターは無人であった。
 万事休す。その時戦う覚悟を決めて振り向くと、若い男はもう追ってきていなかった。
 
 明くる朝ホテルのロビーで空港へのタクシーを待っている間、「また来るのではないか」と気が気ではなかった。
 初めて海外で襲撃をうけた思い出である。
教訓:
・海外では夜間に人の少ない道を歩かない
・慣れたころが危ない。気を緩めない

original 1 may 2016

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