苦い記憶

 私が実質的に生まれて初めて「一人旅」をしたのは、大学受験のことだった。
 宿に到着した夜、私は宿泊券を旅行代理店からもらった封筒ごと帳場(旅館なのでフロントではなく”帳場”)に渡し、部屋に入った。
 しばらくして「帰りの列車の確認をしよう」と思い立ち鉄道の切符を取り出そうとして、「しまった、さっき宿泊券と封筒ごと一緒に渡してしまったようだ」と気づいた。
 帳場に行って「帰りの切符が入っていたはずですが」と問い合わせると、
 なんとその回答は「さっきのは、封筒と一緒に全部ゴミとしてもう燃やしてしまったよ」との驚くべきものだった。
 地元までの運賃は当時でも数万円ほどした。なんとかならないかとかけあったが、にべもない返答しかなかった。一緒に切符を渡してしまったのは私のミスでもあるが・・・10代の自分に強く言える度胸も力もなかった。
 初めての一人旅に加えて、帰りの足が失われてしまった不安。
 この動揺を抱えた状態で受験がうまくいくわけはない。
 試験の結果は案の定だった。
 なんとか滞在費用を削って切符代を捻出したが、帰途の列車では疲れて寝入ってしまい、地元の駅を乗り過ごして随分先まで行って目がさめる有様だった。
 今でも悔しい思い出である。

 その時の反省から以後の旅では、ホテルのバウチャーと交通チケットは常に手元にあるか確認する癖がついた。
 しかし、どちらも電子化された今では紛失することはない。
 これで旅の安心感は倍増。チケットを確かめようとするたび、いつもこのことを思い出す。

Originai oct 15 2015

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